「音環境宣言」発表会に参加して考えたこと

音と睡眠

「音環境宣言」発表会に参加して考えたこと
―― 睡眠研究の立場から、いま“音を環境として捉える”意味

最近、音環境宣言という、音に関する根本的な考えを表明する発表会に参加しました。
そこで語られていたのは、スピーカーの性能でも、音楽の趣味でもありませんでした。
人は、どのような音の中でなら自然に呼吸できるのか。――その問いこそが、これからの

環境設計にとって本質なのだという、静かで強い意思表明だったように思います。

この問題意識に、音と睡眠研究所は強く共鳴します。
なぜなら私たちもまた、睡眠を単なる生理現象ではなく、環境との関係のなかで起こる回復のプロセスとして捉えてきたからです。

温度、湿度、光、寝具。そうした条件が眠りに影響することはよく知られています。
けれど、それらと同じように、あるいは場合によってはそれ以上に、音のあり方が睡眠の質を左右していることは、まだ十分に共有されているとは言えません。

発表会で印象的だったのは、音が「聴く対象」ではなく、空間そのものの質として語られていたことでした。
宣言文には、「音は、本当は『聴くもの』ではなかった。それは、空間そのものの質だった」とあります。
さらに、現代の暮らしに満ちる方向性のある音、小さくても脳に負荷をかけ続ける音によって生じる状態を、「音環境ストレス」と名づけています。
そこには、従来の音響論よりも一段深い、人間環境論としての視点があります。

これは、睡眠研究の立場から見ても非常に重要な提起です。
私たちはこれまで、「静かなのに疲れる」「家にいるのに休まらない」「眠っても回復した感じがしない」といった感覚に注目してきました。こうした違和感は、単なる主観ではありません。
眠っている間も耳は完全には休まず、脳は周囲の音を見張り続けています。
つまり睡眠とは、音から切り離された状態ではなく、音の中で安全を確認しながら成立している状態でもあるのです。

「音環境宣言」で特に興味深いのは、音を“演出”や“付加価値”ではなく、設計し直すべき環境条件として扱っている点です。
宣言文では、音が空間に均一に広がるとき、人は無意識に深呼吸をし、肩の力が抜け、思考が静まると述べられています。
そしてその状態を **「音のエアコン」** と呼んでいます。
温度を整えるように、音の質で空間を整えるというこの発想は、睡眠環境を考えるうえでも非常に示唆的です。

睡眠の問題は、しばしば個人の努力の問題として語られます。
早く寝る、スマートフォンを控える、寝具を見直す。もちろんどれも大切です。
けれど、そもそも身体が無意識に警戒を解けない環境に置かれていれば、眠りは深まりにくい。
そう考えると、睡眠を支えるためには、習慣の改善だけでなく、空間そのものを設計し直すという視点が欠かせません。
音環境宣言が投げかけているのは、まさにその問いだと思います。

私たちはこれから、眠りを「静けさ」だけで語るのではなく、どのような音の中で人は自然に呼吸できるのかという問いで考えていく必要があるのではないでしょうか。
眠りは、単に無音の中で成立するものではありません。
安心して身をゆだねられる環境の中で、はじめて深まっていくものです。音を環境として捉え直すことは、睡眠をより広く、より本質的に捉え直すことでもあります。
そういう意味で、今回参加した発表会は、音の話であると同時に、これからの回復環境をどう考えるかという大きな問いを投げかける場だったように思います。

音と睡眠研究所としても、この問いに今後も向き合っていきたいと考えています。
眠りを支える環境のなかに、音をきちんと位置づけ直すこと。
それは、これからの睡眠研究にとっても、非常に重要なテーマであるはずです。

この記事を書いたひと

有限会社エムズシステム 代表取締役 三浦 光仁

「音と睡眠」に関する第一人者。
音の不思議さ、音楽の凄さに身も心もやられ、人生の半生を捧げる。
あるエネルギーの振動(周波数帯域)により、人体が受け止める感覚センサーが異なると知り、驚愕。波長、周波数、共鳴、共振、という科学に足を踏み入れ、量子論的な世界を毎日楽しく生きる、有限会社エムズシステムの代表取締役、三浦光仁(みうらてるひと)。