聴覚は「眠らない感覚」空間を感じ、眠りを守るセンサー

音と睡眠

聴覚は「眠らない感覚」

人間には「12の感覚」がある——。
そんな拡張された感覚論が最近注目を集めています。従来の五感に加え、平衡感覚や運動感覚、自己感覚や社会的感覚など、私たちの身体と心はより多層的なセンサーで世界と関わっているという考え方です。
この視点に立つと、「聴覚」という感覚の重要性は、これまで以上に深く見えてきます。
聴覚は単に音を聞くだけでなく、空間を把握する力や、睡眠中の安全確認センサーとしての役割まで担っているのです。
私たちが眠っている間、視覚はシャットダウンされ、味覚も嗅覚も大きく反応が鈍ります。
しかし、耳だけは常に周囲の音を聴き続けているのです。耳は眠らない
人間の「警戒センサー」ともよべる機能を備えています。
これは生物としての進化の結果であり、外敵の接近や環境の変化をいち早く察知するために、言わば「耳は最後まで起きている感覚」として機能しています。
そのため、寝室でどのような音が聴こえてくるか、どんな音に包まれているかは、睡眠の質そのものを左右する要因になります。
それに加えて、もうひとつ見落とされがちな聴覚の重要な役割が、空間把握です。
たとえば、私たちは目を閉じていても、どこから誰かが近づいてくるのか、音の方向や距離感、部屋の広さや反響から「今どこにいるか」を把握することができます。
これは、音が空間を伝わり、耳がその広がり奥行きを無意識に感じ取っているからです。
つまり、音は情報であると同時に、空間の質そのものでもあります。
現代の都市生活では、テレビやスマートフォン、家電などから発せられる音の多くが、強い指向性を持つ直進的な音です。
こうした音は聴覚を刺激し、空間を分断するような感覚をもたらします。
一方で、自然の中で聴こえる風や波、鳥のさえずりのような音は、特定の方向を持たず、空気に溶け込むように全体を包む無指向性の音です。
この「包まれる音」は、聴覚に安心を与え、空間の一部としてリラックスできる環境を創り出します。
音が完全にないこと(無音)が眠りにとって良いとは限りません。
むしろ重要なのは、「どんな音が」「どう広がっているか」です。
聴覚が安心し、空間を自然に感じ取れるとき、身体は副交感神経が優位になり、呼吸が整い、深い眠りに入る準備が整います。
つまり、聴覚の静けさとは、静かな音という意味ではなく、聴覚が安心できる音環境のことを指しているのです。
音と睡眠研究所では、今後も「聴覚の静けさ」と「眠りの質」の関係性に注目し、空間を“音”から見つめ直す活動を続けていきます。
目に見えない音だからこそ、私たちの身体の奥深くに響く“気づかないストレス”にもなり得ます。
だからこそ、音の質、空間への広がり、そして聴覚の安心感を大切にしていきたいと考えています。

この記事を書いたひと

有限会社エムズシステム 代表取締役 三浦 光仁

「音と睡眠」に関する第一人者。
音の不思議さ、音楽の凄さに身も心もやられ、人生の半生を捧げる。
あるエネルギーの振動(周波数帯域)により、人体が受け止める感覚センサーが異なると知り、驚愕。波長、周波数、共鳴、共振、という科学に足を踏み入れ、量子論的な世界を毎日楽しく生きる、有限会社エムズシステムの代表取締役、三浦光仁(みうらてるひと)。