「睡眠の起源」を読んで

音と睡眠

「睡眠の起源」を読んで

私たちは普段、「眠りとは、日中の活動で疲れた身体と脳を回復させるためのもの」と捉えがちです。
「疲れたから眠る」「エネルギーを補うために眠る」。
それはごく自然で、誰もが納得する“眠りの役割”として、これまで語られてきました。

けれど、そうした常識を大きく揺さぶる視点を提示する書籍があります。
それが、近年注目を集めている『睡眠の起源』という一冊です。
この本では、「実は“眠っている状態”こそが、生物の本来の姿なのではないか?」という非常にユニークな問いかけがなされています。
つまり、「活動が例外であり、休息こそが生命の基準状態ではないか」という逆転の発想です。
著者が研究対象とするのは、なんと脳を持たない小さな生物──ヒドラ。
このヒドラは、神経系を持たずとも、周期的に動きを止め、刺激に対する反応が鈍くなる
“眠りのような状態”を繰り返しているのだそうです。
驚くべきは、「眠るために脳はいらない」ということです。
私たちは、睡眠とは脳が指令を出して起こる複雑な現象だと思いがちですが、実は“生命”という存在にとって、眠ることはより根源的で、脳の有無を超えた現象である可能性が見えてきます。
このことは、私たちの暮らし方や、睡眠のとらえ方に大きなヒントを与えてくれます。
「効率的な睡眠」や「生産性のための睡眠」といった“活動を支えるツール”としての見方をいったん脇に置いて、「眠っている状態こそが自然な自分である」という認識に立ち返ってみること。
そうすると、「眠ること」は私たちが“本来の自分に戻る”行為とも言えるのです。
そしてその“戻る過程”を支えるのが、心身をやわらかく整える「音の環境」であると、私たちは考えます。
たとえば、波の音や風の音、鳥の声。
あるいは音楽でも、人の鼓動のリズムに近い1/fゆらぎを持つような音。
こうした音は、脳を刺激するのではなく、「感覚を静かにほどく」ように作用します。
音に包まれながら眠るという行為は、もしかすると、活動的な世界からもう一度“生命の静けさ”へと帰っていく、非常に本質的なプロセスなのかもしれません。
私たちは、睡眠を単なる休息や回復ではなく、「感覚を解放し、本来の自己とつながる時間」ととらえています。
『睡眠の起源』という視点は、その考え方をより深く、より自然なものとして裏づけてくれる示唆に満ちています。
脳がなくても眠る。
それは、「眠り」が知性や思考を超えたところにある、“いのちの基本動作”なのかもしれません。

この記事を書いたひと

有限会社エムズシステム 代表取締役 三浦 光仁

「音と睡眠」に関する第一人者。
音の不思議さ、音楽の凄さに身も心もやられ、人生の半生を捧げる。
あるエネルギーの振動(周波数帯域)により、人体が受け止める感覚センサーが異なると知り、驚愕。波長、周波数、共鳴、共振、という科学に足を踏み入れ、量子論的な世界を毎日楽しく生きる、有限会社エムズシステムの代表取締役、三浦光仁(みうらてるひと)。